第2弾『写真作品・日本のこころ<時空>』に挑戦!

作品紹介

この度、亀村俊二様のご好意により作品のデータをお預かりすることになりました。

この作品を初めて見た時、時間をかけて描きあげた絵画を思わせるものでした。現在を切り取った写真であることを忘れ、昔の姿や、見つめ続けられてきた「時の流れ」を感じながら、見入ってしまいました。

私たちは、この作品をできるだけ忠実に再現するのではなく、写真家の意図と私たちの解釈を加味し、印刷技法を駆使し印刷でしかできない表現を試みました。

FMスクリーニングによるディティールの表現、マット墨による溶け込むようなソフト感と印画紙のような質感、見る角度によって変化するバックをシルバーの30線で表現しました。

過去の建造物が時空を超え、今の輝きがあります。日本のこころ<時空>その二という今回のテーマに少しでも近づけた印刷物になれば、私たちプロジェクトスタッフの喜びです。

作者のことば

日本のこころ<時空>

亀村 俊二 Kamemura Shunji

確か、愛用していた望遠レンズ・タクマー135mmで撮ったのであろうと思われる。
シャッタースピードや絞りの関係など、どうすればうまく写すことが出来るのか
得意になって私に教えてくれた。
特に感心するのは、この写真のどこが良いのか、またその内面まで切り込んで説いてくれた。
夜になると小さな部屋を暗室がわりに引き伸ばしの技術も教えてくれた。

私は父のペンタックスを持ち出して家の前の畑に実った柿の木を撮った。
それを見よう見まねでキャビネサイズの白黒写真に一枚焼いてみた。
夜遅く仕事から帰って来た父にその「柿の木」の写真を見せた。
写真を観る父の横顔をこわごわ覗き込んでいた私には、ため息とともに父の落胆ぶりが伝わって来た。
少年であった私の心にはっきりと感じ取るものがあった。
これが私がはじめて写真というものに目覚めた瞬間であった。

中学2年の夏休みに、自由研究の宿題が出た。
私は写真をいっぱい散りばめた京都の絵地図を作ることにした。
嵐電に乗って嵐山まで、そこから北へ嵯峨野あたりを一日歩いて写真撮る。
天竜寺、二尊院、落柿舎、祇王寺、念仏寺、大覚寺と嵯峨野の小径を辿って歩くと
多くの由緒ある寺と出合えて楽しいものだった。
それでも三門前の由緒書きを根気よくノートに書き写すのは苦痛だった。
今であれば、記録として写真を一枚撮れば済むのだが、そのころの中学生にっとっては
たとえ一コマのフィルムも貴重なものだった。
ほとんど小遣いの無い私にとっては拝観料を払い、寺の中へ入って写真を撮ることも出来なかった。

大きな模造紙に嵯峨野の絵地図を描き、寺の三門の写真の横には由緒書を、
大沢池や広沢の池、竹林やすすき野原のイラストも添えた「嵯峨野の寺」は他の生徒たちの自由研究
とともに教室の壁に貼り出された。
友達には亀村は写真がうまいと思われ、担任であった歴史の先生にはほめられた。
言うまでもなく、私の教室では、まだ写真を撮る生徒など誰もいなったのだから。
普段それほど成果の上がらない私なのに、
それ以来、周りから私という人物の見方が変わったように感じられた。
ただ父に教わったとおりに写真を撮っただけなのに…!
このことがきっかけとなり、私は写真というものと長く関わることになっていった。

父は11年前に逝ってしまったが、楽しそうに磨いていたペンタックスのブラックボディーは磨きすぎたのか
鈍い真ちゅう色の光沢を放ったカメラとなって、いま棚の上に鎮座している。
私はこんな想いの中で、
今日でも時に古寺を訪れ「日本のこころ<時空>」をテーマに写真を撮り続けている。

作者プロフィール

亀村 俊二(かめむら しゅんじ)

日本写真家協会会員
京都精華大学デザイン学部 非常勤講師
 

パブリックコレクション

パリ国立図書館写真版画部
フランス国立レンヌ大学
 

写真集

『束の間の芸術─パリ・ジョルジ.ユサンクの壁』(1996年)
『日本のこころ<時空>』(1997年)

プロジェクト・チームについて

制 作株式会社アート印刷工芸社
原 画フジワラヨウコウ
印 刷設計:木村 泰清版 :西村 文男 印刷:清水 好信、寺沢 浩進行管理:三木 照夫
企 画森下 舒弘

プロジェクト・チームに参加して

版担当:西村 文男
受け継がれてきた建造物が、時とともに痕跡が刻まれ、自然が放つ光と影のプリズムにより、異次元的な作品だと感じました。
この度、デザインを手がけるにあたり、時空を感じながら、製版技法のドット(FMスクリー二ングと、AMスクリーニング30線)を使い、写真と背景の間にコントラストと空間を作り出し、光線の角度で写真が浮き上がり、動きのある時空作品にしました。

印刷担当:清水 好信
プルーフと作者のイメージをもとに、マット墨とプロセスのシアン・マゼンタ・イエローの濃度で、グレーバランスをとり、バックにシルバーをのせて、オフセットによる印刷を行いました。
この印刷のポイントは、通常の175線ではなく、FMスクリー二ング出力によるキメの細かい点を再現しました。また、プロセス墨でなくマット墨の使用により、しっとりと、バックには極上シルバーを乗せ、少しでも作品のイメージに近づけるよう再現しました。

営業担当:三木 照夫
初めて亀村様の作品を目にした時、1枚の絵画を見ているような気持でした。…が、それが1枚の写真とお聞きしてビックリ!他の作品集(時空)を見せていただき、これまた超ビックリ!
凡人には気にも留まらない、ごくごく一部を捕えられた、すばらしい作品の数々、その中からご提供いただいた作品に、当社が作品イメージに合った表現方法・手法で印刷させていただきました。他にも色々な表現方法・手法があると思います。今後も色々な表現方法・手法を模索しつつ、ご提案させていただきたいと思いました。

データについて

写真撮影Digital Camera
画像編集ハードウェア・スペックMacPro 2.8GHz Quad-Core Intel Xeonメモリ:5GB 1066MHz DDR3HDD:1TBソフトウェア・スペックMac OS X 10.6.5Adobe Illustrator CS5Adobe Photoshop CS5Adobe InDesign CS5リップPrinergy Ver5.1.2.2CTPKodak Lotem 800 QuantumStaccato FMスクリーン出力
印刷環境印刷HEIDELBERG SM102-5P 5色機インキ大日精化:リソレックスエクシイプロセス(藍・紅・黄)三星インキ:ニューロイヤル極上シルバー三星インキ:マット墨用紙五条製紙:ハイマッキンレーポスト 菊判<160>竹尾:テイクGA-FS<135>